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就職活動を把握しよう

課長は課長で、自分のセクションの集団モラルを高揚させるため自発的に朝礼の仕方を工夫したりする。 自分の課だけに限定したルールを制定することもあるだろう。
そうやって、各々が小さな工夫意思決定を積み上げてきたわけだ。 もちろん、公式に権限と呼べるようなものではない。
きわめて範囲の限定された意思決定機能が、インフォーマルなかたちで現場にブレイクダウンされていたということだ。 すると、現場で一人一人が自由に動くことができる。
日本の会社は従業員それぞれの役割が不明確だと批判されることがあるが、そういう意味では、自由を保証するためにあえて権限規定を暖昧にしていたのだと理解することもできるだろう。 たとえてみれば、恐竜のセルフコントロール・システムに似ている。
恐竜は手足に脳がついているため、トータルな思考力は持ち合わせていない。 したがって大きな環境変化には対応できないが、小さな刺激に対しては手足が俊敏に反応する。

それによって、どうにか巨大な身体をコントロールしていたわけだ。 もっとも、恐竜に似ているからといって、いつまでも小さな意思決定だけで組織が維持できるということにはならない。
結局は環境の変化に対応できない巨体を持て余して恐竜が絶滅してしまったように、日本企業も手足の脳味噌だけでは巨大化した組織をコントロールしきれなくなっているのである。 いずれにしても、これまでは手足の脳味噌現場での対応力によって積み上げてきた小さな工夫がKAIZEN型のアウトプットを引き出し、日本企業の競争力を高めてきた。
こうした組織運営制度を基軸とする集団では、とにかく一生懸命に働くことが重視される。 集団モラルこそが最大の組織運営課題であるから、事業環境の戦略的変化に対する情報収集システムがない代わりに、集団内の人間関係をチェックする情報収集システムは非常に発達している。
たとえば上司として部下の仕事ぶりを把握しようとするなら、同僚の評判に耳を傾けるのが最も手とり早い。 「彼、最近どう?」「いや、なんだかヤル気ないみたいですよ」といった日常会話によって情報がやり取りされ、組織成員のモラル状態を把握する。
集団モラルを破壊するような揉め事は最大のご法度だから、情報収集の範囲はプライベートな部分にまで及ぶ。 課長は、部下が交際している女性の性格や、ギャンブルにのめり込んでいることまで把握しているのだ。
しかも、知っているだけではなく私生活に口を出す。 「あんな女とつきあっちゃダメだ」とか「競馬もほどほどにしろ」といった具合に、上司としての命令とも先輩としてのアドバイスともつかない、暖昧なコメントを発するのだ。
強いていえば家父長としての訓告である。 私生活の破綻によって職場のモラルを傷つけることを未然に防ぐための、テイクケア・システムだといっていい。
「仕事さえ一生懸命やっていれば、おまえの面倒は俺がみる」というわけで、大家族主義的な集団モラル・マネジメントシステムとしては、きわめて織密なものだ。 赤提灯や朝礼といった場所で部下の全人格的な情報を吸い上げ、交際や結婚についてのアドバイスを行い、家計の設計や住居の場所にまで口を出すという情報と情意の共同体的共有化システムが根づいていたのである。

こうしたインフォーマルな情報・情意の共有化システムによって集団モラルが高められ、その中から現場主義的な小さな工夫も生まれてくる。 その集積がKAIZEN型のアウトプットという日本企業の最大の武器となったのである。
現場の小さな工夫に代表される実行機能を極大化することが日本的組織制度の特徴だとすれば、の特徴はミドル層がCPU(コンピュータの中央処理装置命令を解釈して実行する中心的機能)的な役割を果たしたことである。 より具体的にいえば、四十代の課長たちが、大家族主義的マネジメント体制の中で、父親役を担当してきたということだ。
父親として、家族である課員の長所や短所、生活事情などをすべて斜酌した上で、適材適所とモチベーションの向上という人事制度の目的の小さなコントローラーの役割を担ってきたのである。 マクロの視点から、従来の日本企業が集団モラルを優先して個人のモチベーションに大きなウエイトを置かなかったが、集団モラルも結局は個人のモチベーションの集積であることに違いはないのだから、ミクロの視点では決して無視できるものではない。
一義的には集団モラルを重視するが、それを上から押しつけるだけでは全体のモチベーションは高まらないわけだ。 したがって、集団モラルを個人にブレイクダウンして下から全体のモチベーションを支えることが求められる。
その作業を中心になってこなしていたのが、父親役の課長たちなのである。 日本企業のトップは明確なかたちで大きい意思決定を提示せず、きわめて暖昧な指示しか下さない。
そのままストレートに伝えると現場が何をしていいか戸惑ってしまうような、抽象的な内容が大半だ。 そこで、トップからの暖昧な指示を現場の事情を勘案しながら解釈し、より現実的で具体的な言葉に翻訳して現場に伝える作業が必要になる。
この、まさにCPU的な機能を担っていたのも課長たちである。 このことが実行機関としての現場を作る上で大きく貢献したことは間違いない。
暖昧な指示を具体的な内容に翻訳する作業というのは、非常に高度なノウハウである。 最近は知的付加価値としてマーケティングや情報に関するノウハウやテクニックが重視されているが、この作業には、そういった科学的なノウハウとは違い、きわめて非定型で柔軟な対応が求められ理路整然と解決策を導き出すマニュアルがあるわけではない。
状況に応じてファジーな判断力を発揮しなければならないのだ。 そういう意味で、嘗ての課長たちはきわめて高い能力を身につけていたといえるだろう。

そのお陰で暖昧な指示でも組織全体が適正に稼働し、また暖昧であるが故に現場ごとの業務が最適化されたのである。 これまでの日本的組織運営制度は、こうした優秀な課長の存在があって初めて成立したといっても決して過言ではない。
だからこそ、優秀な課長になることが従業員の当面の目標になり、会社側としても優秀な課長を育成することが競争力の強化を図る上できわめて重要なテーマだったのである。 大半が四十歳前後で課長に昇進するのも、その立場の重要性を示している。
さまざまな業務で得たノウハウが蓄積され、経験と知識のバランスがよく、しかも体力とヤル気が最も充実している年齢で、現場のコントロールタワーに据えられるわけだ。 そこで組合員と非組合員の線引きがなされるのも、その役割を重視した結果に他ならない。
組織構成を見ても、課は戦略実行単位として位置づけられている。 日本の企業組織は、課長を責任者とする課という単位を積み上げることで作られたものだといってもいい。
それだけ現場の意思決定者である課長に依存する度合いが大きいのである。 そのため、課長でカバーできる範囲内の事柄についてはきわめて強靭な組織運営体制となるが、課長の手には負えない範囲で問題が生じると一転して弱みを見せるという弊害もある。

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